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病は気から:ノセボ効果研究の現在

[Review] F. Benedetti et al,
When words are painful:
Unraveling the mechanisms of the nocebo effect
Neuroscience 147, 2007


「病は気から」という諺は、
「病は気から治る」という意味と
「病は気から始まる」という意味の両方で解釈ができます。

前者の、薬ではないのに「これはよく効く薬です」と言って飲ませると治ってしまうのがプラセボ効果

後者の、毒ではないのに「これは体に悪い薬物です」と言って飲ませると本当に体調を崩してしまうのがノセボ効果


このレビューは、ノセボ効果のメカニズムがだんだんわかってきた、ということを報告しています。

なぜプラセボだけではなくノセボ効果も重要かというと、医者が「この薬は副作用があります」と言ってしまうことで、言わなければ発現しなかった症状が出る場合があるからです。

無論、副作用のことを知らせずに飲ませるわけにはいかないので、「ノセボ効果があるから説明しない」という方向にはなりません。
よって、副作用のことを知らせつつ、ノセボ効果だけを軽減できる方法があればベストとなるわけです。

しかもノセボ研究はプラセボ研究よりも倫理的に実行が難しいという特徴があります。
プラセボ効果の場合、被験者が本当に治ることは特に問題がありませんが
ノセボ効果の場合、本当に体調を崩してしまったら医者の責任が大きく見えてしまいます。
(プラセボでも、治らなかった群は機会費用を損失しているので同値の気がしますが)

よって、最近のノセボ研究の成果は素晴らしい、という趣旨になっています。

レビューの大意としては以下の3点。

・不安を煽る言葉をかけられた患者は、コレシストキニン(cholesystokinin, CCK)が活性化する。

・CCKは痛みを誘発する

・CCKのアンタゴニスト(たとえばproglumide)は、この不安に誘導される過剰な痛みを阻害することが判明。
CCKアンタゴニストは臨床に応用できるのではないか。


"word stimulus"という表現が新鮮でした。
言葉をもリガンドとみなして真面目に研究しているのがおもしろい。
「音の構造」が脳内でどのように処理され、生理学的アウトプットに結びつくのかは非常に興味があります。
(無論、この論文でもそこまでは触れていません)
【“病は気から:ノセボ効果研究の現在”の続きを読む】
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タンパク質構造のコンピュータ予測

今日の講義は理論分子生物学。
「コンピュータでタンパク質の分子構造を予測しましょう」というテーマでした。

「今のところ、コンピュータで予測しても、最終的には実験で確かめなければなりません」
と、最初から弱気な発言。

きっとこれまで、
「コンピュータで予測したところで証明にならない」
と叩かれてきたんだろうなぁ。


私としては、将来的にはコンピュータ予測の方が有用になるのではないかと空想しているのですが。

「コンピュータは信用ならん」と言いますが、ウェットな実験だって、タンパク質を結晶化するために様々なアーティファクトを加えており、「ネイティブな構造なのかわからない」のはお互い様だと思います。

初期値とモデルさえ完全なら、コンピュータの方が何らアーティファクトを加えずに構造を知ることができます。
(今はその「初期値とモデル」が貧弱なだけで)

しかも技術的に結晶化が不可能、もしくは極めて難しいという場合には「実験で確かめる」という選択が取れません。

コンピュータが出した構造があらゆる実験結果と整合性があるのなら、ウェットで構造化しなくてもいったんそれを「正しい」構造とみなしても良いのでは?


天体の動きもカオスですが、探査ロケットの軌道を
「飛ばしてみなければわからない」
なんて言う人はいません。

天体およびロケットの相互作用を計算すれば、飛ばす前からロケットの軌道は非常に良い精度でわかります。

タンパク質も、天体が超密集した状態と考えれば、原理的に「科学の範疇で」予測できると言えるはずです。

「全て試してみなければ証明と言わない」のはある意味で科学の敗北のように思ってしまいます。




ウェットとドライの間には思想だけでなく知識の溝も大きいので、
もう少しお互いに歩み寄れば生産的なのではないかとも思いました。

今日の講義も、「エントロピーが・・・」「ギブス自由エネルギーが・・・」という言葉がよく出てきましたが、多くの学生には意味不明だったはずです。

(「ランダムコイルをとるタンパク質であっても、それはエントロピーがエネルギーを超えるからであって、エネルギー最小状態を追求する方向性は間違っていないはず」という説明には少し納得)

これらの用語は物理出身でない限り生物屋さんにはなじみの薄い言葉。
ただの分数が出てきただけで「わたし数学ダメだから」と忌避する人も珍しくありません。


逆に、今回の教授はウェットの知識には弱そうでした。

私が「このタンパク質はよく研究されていると言うことですが、
ドーパミンが結合したときの構造も予測されているのでしょうか?」
と質問したところ、

「ドーパミンってどんな分子なんですか?」

なんて言われて驚愕しましたし。

ドーパミンの構造を知らなくてもドライはやっていけるんだ・・・。



でも生き残るためには「狭く深く(選択と集中?)」の方がいいのかなぁ。

【記事】ポスドクの85%「将来に不安」

今週の nature job より。

(1)大阪大学の調査によれば、ポスドクの60%が「これ以上ポスドクをやりたくない」と回答。
85%が「将来の職に不安を覚える」
としている。

(2)1990年代初頭、政府は大学院重点化を決行。
1996年には9,000人弱だった博士号授与は2001年には16,000人にまで増加した。

(3)日本の科学技術の予算は依然高く、2001年以降は毎年3兆円に上る。
それでも職探しは難しい。
毎年新たに空く研究職の数に対して、学士号の数が多すぎるのだ。

(4)博士号取得者に職を見つける支援をするだけではなく、政府は新たな職を作り出す努力をすべきだ。

(以上)


(1)ポスドクの85%が将来に不安を覚える、というデータについて。

残り15%は「将来に不安はない」のか、それとも「無回答」が大半なのかで見方が違ってくる。

おそらくポスドクに限らず多くの職において将来は不安なはずで、
それよりも将来に希望を持てる人がどれだけいるのかの方に注目したい。


(2)博士号、毎年16,000人 について

多すぎですやん。

白楽ロックビル著『博士号とる?とらない?徹底大検証!』には確か
「博士号取得者は毎年10,000人。研究者の新たなポストは毎年3,000人。毎年7,000人が路頭に迷う」
とか書いてあった覚えが。

今や毎年13,000人が路頭に迷っているのだろうか・・・。

ん?そういえば16,000人中13,000というのはおよそ81%
上記アンケートの85%と重なっているのではないだろうか。


(3) 科学予算3兆円 について

対GDP比では他先進国よりずっとショボいっす。

しかも3兆円と言ってもパチンコの市場規模の10分の1だからなぁ。
国民の科学に対する興味はパチンコの10分の1と言われると、確かにそれくらいかもしれないと思える。


(4) 新たな職を作る、について。

大賛成。
欲を言えば、職なんて政府が作らなくても博士側に企業精神があれば作れるはずとは思う。
そんな人は学生のうちから他のビジネスを興しているのだろうけど。

「職を作ってあげる」という姿勢も疑問が残る。
政府自身も、自分たちのために科学アドバイザーetcが必要なはず。
アメリカみたいに、パワーランチで科学アドバイザーが政治家に科学系の問題を概説する制度があれば、政治家も『よくわからんことは官僚に丸投げ』しなくてよくなると思う。

寒いと痛みが増す機構にはNav1.8が関与

寒いと痛覚が増すのは電位依存性Naチャネルが活性化するから
Zimmermann et al,
Sensory neuron sodium channel Nav1.8 is essential for pain at low temperatures
nature 447, 14 Jun 2007


こういう論文、大好きです。
「そうそう、これが知りたかった!」と言いたくなるような、
日常の疑問に生化学レベルで答えを出してくれる論文。


肌が冷気にさらされていると、何かが肌に衝突した時、異様な痛みを覚えることがあります。

小学生のとき、なぜか縄跳びは冬の体育科目だったわけですが、
たまに失敗して手の甲や頬に縄が当たると非常に痛かったのをよく覚えています。
明らかに、暖かい環境で失敗するよりも痛いんですよ。

この現象はとても不思議でした。
当時考えたのは、
・寒さで縄が硬くなっているからではないか(水が氷になると痛いように)
・暖かい時には汗が衝撃を吸収してくれるのではないか

など、物理的な性質のことばかりでした。
当時は物理学にしか興味がなかったのも一因かもしれません。

生体の過敏性の方が温度によって変わっていたんですね。

論文の概要は以下の通り;

・Nav1.8は、電位依存性のナトリウムチャネル(VGSC)の一つ。
TTX抵抗性を持ち、皮膚表層の侵害受容繊維のみに存在する。

・冷却により興奮する細胞膜において、TTX感受性のVGSCは、冷却されるにつれて不活性化する。

・それに対し、Nav1.8は冷却されても不活性化しない。

・むしろ低温では興奮閾値が下がるので、わずかな膜電位の変化でも活性化する。

・低温下では、Nav1.8のみが、中枢神経へ信号を送ることができるチャネルである。

・実際に、Nav1.8をノックアウトしたマウスでは、冷却刺激にも機械刺激にも応答しなかった。

・低温下であっても痛覚は重要な情報であるため、このような機構が進化的に保存されてきたのであろう。

(以上)


何ともすっきりした論文です。

しかし、確かTRPVファミリーの中にも、メントールなどのリガンドが結合することで活性化の閾値が下がって、中枢に情報を送るようなものがあった覚えが。
あれは侵害受容ニューロンnociceptive neuronではないのかな。

あと、低温下でも痛覚は重要とディスカッションされていますが、
閾値を下げる必要まであるのかは疑問に思いました。
他の受容体が不活性化しているのであれば、それだけで相対的に強い刺激になるはずで、わざわざ『温暖下では痛みとは感じない』刺激にまで反応する必要があるのか疑問です。

このあたりは進化的な中立性が原因なのかもしれません。

RNA研究の現在:The Economist特集より

今週の The Economist(16 Jun 2007)に RNAの特集がありました。
しかも表紙を飾っています。
(→The Economist のHP

様々なRNA機能の発見が、いかに従来の考え方を覆し得るのかを解説しています。
rasiRNAs, XIST, PINC, SCN9A, HOX, samuraiなど、専門用語も遠慮なく出てきます。
もちろん、それぞれの性質を一行で概説する親切さはあります。

ソクラテス、孫子、『Back to The Future』、シャーロック・ホームズなどから
有名な言葉を引用したりして読者を楽しませる工夫もされています。

ジョークも20行に一つ以上出てきます。
(私が気付かないだけで、もっと多くあるのかもしれません)

政治経済誌なのにも関わらず、科学の最新かつ重要な知見を
科学的レベルを落とさずに詳説できるThe Economistはやはり素晴らしい。

最近、親日派の編集長が退職して新しい人に変わり、日本の記事に
日本への配慮が欠けてきた節はありますが、科学の記事に関しては
The Economistの姿勢を支持し続けたいと思っています。

欧米にはこういった雑誌があるから文系の人も科学に疎くならず、
かつ読者のレベルも高くなるからこういった雑誌が存続できる、
という好循環が生まれているのだと推測できます。

インテリジェント・デザインなどのエセ科学は欧米でも問題になっていますが
インテリジェント・デザインはかなり込み入った理論を展開しており、
ある程度の素養がないと構築できるものではありません。
反論する側にも『科学とは何か』ということを説明する能力が必要になります。

「水からの伝言」に代表される日本のエセ科学はレベルが低すぎて論外です。
「『水からの伝言』は科学リテラシーなどなくとも文系の枠内で反論可能であり、
あれを科学リテラシーの欠如と呼ぶのは文系人間に対する侮辱である」
というコメントを見たことがありますが、全く同感です。

日本でインテリジェント・デザインが広まらない一因は、
インテリジェント・デザインを理解できるほどのリテラシーがないからではないかと邪推しています。

まぁ、欧米にも低級なエセ科学はあるので、
単に身近だから日本のエセ科学のほうが目に付くだけかもしれませんが。

・・・何の話でしたっけ。
そうだRNA。

【“RNA研究の現在:The Economist特集より”の続きを読む】

御子柴先生 特別講義

今日は御子柴克彦先生の特別講義、一日目。

Reelin, Yotari, Wriggle mouse Sagami, IP3Rなどで華々しい成果を出している人です。

話のうまい人で、内容が容易に頭に入ってきました。

5時間の講義のうち、最初の1時間は延々と「研究者としての心構え」がテーマだったので少々驚きました。
僕はこういう話も好きですけれども、「早く本題に入ってくれ」と思っていた人もいたかもしれません。

以下、その「心構え」の一部です。

研究内容で重要なのは次の7つ。
1) 新しい研究の切り口と視点
2) 固定概念の打破
3) ワンパターンからの脱却
4) 発想の自由さ、ユニークさ、豊かさ
5) 材料の自由な選択
6) 新しい技術の導入
7) 新しい技術の開発

人材育成で重要なのは以下の4つ。
1) 多様な分野からの人材を集めること
2) ユニークな人材を育てること
3) 発信して人を引きつけるラボヘッドになること
4) 独立心を育成すること

・自分で流行を作ること。
決して流行の中に自分の身を置いてはいけない。

・朝から晩まで実験をやっているようではダメ。
自分の頭で考えること。
トラブルシューティングができるかどうかがその人の真価。

・ポスドクになって独立したときに何ができるかが重要。
それまでテーマや方法を上から与えられてきただけの人は何もできなくなる。

・独立心は必須。
ただし、研究者は孤独だから一人でやろうとするとつぶれる。
必ず多くの人と関わりながら研究を進めること。
一人で良い研究をすることなどできない。

・論文は少なくていい。本当にオリジナルで本質的な研究をすること。
本当に重要な研究をやっている人はみんな欲しがる。

・データが簡単に出るような研究はどうでもいい。

・論文が多い人も好かれるけれども、それは文科省の予算が一緒に獲得できるからであって、論文の真価が認められたとは限らない。

・良い論文は斜め読みしてもすっと頭に入ってくる。
それは「本当にわかりたいこと」への筋道が通っているから。
データだけ出した論文はストーリーをこじつけなければいけないから読みにくい。

・いろんなアイディアをボスにぶつけることが大切。

・教科書を信じてはダメ。あれはわかっていることしか書いてない上に、
そもそも間違いだらけ。

・自分の大学に固執せず、院生のうちにできるだけあちこちすること。
人の輪を広げること。
関東と関西でも大きく考え方が違うし、
日本と世界でもまた大きく考え方が違う。

・脳をやるのに脳だけを見ていたのではダメ。
うちの研究室は脳がテーマだけれども、半分以上の人が脳以外のことをやっている。

・材料選びはとても重要。
同じテーマでもどの生物種を使うかによって実験の成否が大きく左右される。

・医学部の人が理学部の人よりもテーマ選びに優れているのは、
常に「通常-異常」「健康-疾病」の差異を意識しているから。

・解剖学の細かい知識を覚える必要はない。
ただ、「これを調べればわかるかもしれない」という引き出しの数を多くしておくこと。
いったんひらめけば後は調べればよい。

・英語力をつけること。
英語で外国人のヒソヒソ話を聞き取れなければいけない。
彼らは重要な話を日本人に大声ですることはない。
外国人どうしの仲間内で小さな声でしゃべっている。

・逆に、自分がきわどい質問をされた時には、それをうまくかわして
相手から重要な情報を聞き出せるだけの英語力が必要。

・理研のミーティングは全て英語。
外国人も22%いる。目標は30%。

・地道にコツコツやれば必ず報われる。


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円形の進化系統樹

Tree of Life


上の図は、テキサス大学のDavidらが作成した進化系統樹。
3000の種について解析し、描かれている。
今月の National Geographic に載っていて知った。


これまで円形の系統樹は見たことがなく、感動した。

「生物的にはどの種も同等」という思想が表現されているように思ったから。


たまに人間が進化の『頂点』にあるような系統樹もどきを見かけるけれども
(あろうことか京大etcが主催した子供向けゲノム講座がそう描かれていた)
その時点で科学性よりも政治性が強くなってしまっているので私は好きではない。

この円形樹形図はその対極にある。
円の淵のどの位置にあっても他の種と位置的な性質が変わらない。

美術的にも美しい。
(National Geographicの図は上の図よりももっとカッコ良くアレンジされていた)


ちなみに、地球上には少なく見積もって400万の種が存在すると言われ、
そのうち確認されているのは175万種、
系統樹の中に位置づけられたのはわずか8万種、
らしい。

まだまだ地球にも未知の生物が多いんだなぁ。

PKU / 脳と心臓の動脈構造

取りとめもない雑感を少々。

・フェニルケトン尿症phenylketonuria (PKU)という病気の存在を知った。

症状としては、精神遅滞が最も顕著で、他にも嘔吐・過動・痙攣・興奮などがある。

PKUは劣勢の遺伝子のホモ接合体によって発症し、
欧米では100人に一人がこの遺伝子を持っているため、10000人に一人がこの病気にかかる。

PKUではフェニルアラニンヒドロキシラーゼが欠損している。
これはフェニルアラニンをチロシンに変換する酵素。

その結果、体内にフェニルアラニンが蓄積し、正常ではチロシンから合成されるドーパミンが低下する。
その結果、脳の発達が異常になる。


現在、病院では新生児の血液中のフェニルアラニン濃度を調べ、
濃度が高ければ直ちに低フェニルアラニン食で育てるよう親に指導している。

この食事によって血中のフェニルアラニンを減らし、精神遅滞を防げる。


・・・らしい。
以上、Diamond et al, Prefrontal cortex cognitive deficits in children treated early and continuously for PKU, Chigago Univ. Press, 1997などより抜粋。

よくわからないことが2点;

1) チロシンが足りなくて欠乏するのはドーパミンだけでなく、
ドーパミンから作られるノルアドレナリンやアドレナリンも同様なのでは?
これらが足りないことによる障害はないの?

2)低フェニルアラニン食で育てれば確かにフェニルアラニン濃度は下がるだろうが
結局フェニルアラニンヒドロキシラーゼは増えていないわけで、
やはりドーパミン以下の神経伝達物質は欠乏したままなのではないだろうか?



↓また別の話。

・脳と心臓の動脈の構造は他の動脈と比べて極めて異なる点がある、
ということを解剖学のテキストを読んで知った。

それは「迂回路がない」こと。

他の臓器や手足であれば、動脈が一本や二本つぶれても、他の血管が迂回しているので、その先の臓器・四肢に血液が行かなくなるということはない。(大動脈を除く)

しかし脳と心臓の動脈は、枝分かれしていくばかりで再び融合することがない。
つまりある動脈が途切れると、その先の部分では必ず血液が不足する。
これが脳虚血・脳卒中などの原因になる。


これはとても不思議。
なぜ脳と心臓という、生命のコア部分の動脈が保険をかけていないのだろう?

進化の中立説を採れば、
「昔は脳卒中とか心臓発作で死ぬことは特に種の保存に不利ではなかった」から
ということになるのだろうか。
そんな年齢になる前に他の原因で死んだとか。

でもそうだとしたら、脳や心臓よりもずっとどうでもいい他の器官では
保険の効いた動脈構造になっているのが不思議。

血管の発生過程を勉強していないので細かい議論ができないのが残念だ。

コメを遺伝子改変してコレラ用ワクチンに

米を遺伝子改変してコレラ用のワクチンにする方法が開発されたそうです。
(Scientific American News)

Scientific Americanを読んでいて知ったものの、これ東大の研究なんですね。
おそらく日本の新聞にも出ていたのでしょうが、気付きませんでした。

コレラ毒を生産する細菌の遺伝子の一部をコメの遺伝子に導入し、そのコメをマウスに食べさせたところ、コレラによる下痢に対する免疫ができた、とのこと。

今回の研究は何が革新的だったかというと;
・従来のワクチンは短時間しか効果がなかったが、今回のコメワクチンは1年半も効果が持続

・従来のワクチンは冷蔵庫での保存が必要だったが、コメワクチンは室温で保存可能

・従来のワクチンは注射する必要があったけれども、コメワクチンは食べるだけ

・従来のワクチンは精製のプロセスが必要だったけれども、コメワクチンには要らない。

・従来のワクチンは胃酸で分解されることがあったけれども、コメワクチンはされない。

・従来の遺伝子改変ワクチン食物(コーン、コムギなど)と異なり、コメは子孫をそこらへんにばら撒いたりしないため、遺伝子拡散の危険性が少ない。


ただ、コメだと適正量を食べるのが難しいかもしれないため、
今後はコメから取り出したワクチンをタブレット状にすることも検討する、とのこと。
(となると上記の「精製の必要がない」という利点は消えるわけですね)


10年ほど前に、『バナナの遺伝子にHIVのコートタンパク質の遺伝子を埋め込んで、対エイズ用のバナナワクチンを作ろう』という計画があったのを彷彿とさせます。

あのバナナワクチン、結局どうなったんでしょう?
技術的に無理だったのか、採算が合わなかったのか、それともいろんな団体の反対に遭ったのか?


前々から疑問だったのですが、こういうのって免疫寛容が起こったりしないんですかね。
コメやバナナの食べすぎで・・・。

【BOOKS】『生、死、神秘体験』

生、死、神秘体験 生、死、神秘体験
立花 隆 (2007/05/15)
講談社


立花氏と様々な著名人による、臨死体験や脳死移植などについての対談集。
1986年から1994年にかけてのものであり、昔の「脳」議論がいかに現在のそれと異なるかを思い出させてくれます。
文系の方々が多いので、時代というより分野の差異も大きいのかもしれませんが。

「意識には『日常の意識状態』と『意識の変容状態』があり、スタンフォードの研究によると『意識の変容状態』である夢を見ているときに体外離脱ができる」(p219)

のようなトンデモ系のお話がよく出てきます。

立花氏の評論は興味深いのですが、やはり理系分野については
社会学系に比べて非常に弱い印象を受けます。

「DNAが一個でも残っていたら最終的な死ではない」(p376)というくだりなどは
生命にとってのDNA観がだいぶずれている印象を受けます。

他にも:
「物質世界というのはエントロピー増大の法則に従っているわけです。
物は放って置けばバラバラになっていく。
しかし生命はより秩序が増す方向に向かう。
このような過程は物質界では考えられない。
生命界と物質界では、全く別の現象が起きているわけです」(p266)

いやいや。
エントロピー増大の法則は生命も含めた物質全てに適用できますヨ。
生命のような開放系でエントロピー増大の法則を使っちゃダメダメ。

よく進化論の否定者が
「進化はエントロピー増大の法則に反するじゃないか」
と言ってますが、あれと同程度の典型的なミスです。

同様に、
「君が代の『細石の巌となりて』はエントロピーの法則に反する」
と言う人もいますが、あれも開放系なら何も問題はないわけです。
泥や砂が堆積して巨大な岩になるのはごく自然なこと。

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自閉症にはSHANK3, Neuroligin3, 4 の変異が関与しているかもしれない

自閉症の人(の一部)にはSHANK3に変異がある
Durand MC et al
Mutations in the gene encoding the synaptic scaffolding protein SHANK3 are associated with autism spectrum disorders
Nature Genetics 39, Jan 2007


少し古い論文です。
学部生向けの論文紹介で使ったのでついでにアップしておきます。

この論文は、次の論文と同じグループが出しています。

自閉症の人(の一部)にはNeuroligin3と4に変異がある
Stephane Jamain et al
Mutations of the X-linked genes encoding neuroligins NLGN3 and NLGN4 are associated with autism
Nature Genetics, may 2003



自閉症と神経タンパク質の関わりが始めて示唆された最初の論文(のはず)です。


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mixiGraphとポスト・コネクトーム

脳の全ての神経回路を調べよう、という計画が進行中らしいです。
(c.f. Shuzoさんのエントリー:PLoS Comput. Biolのreview)

コネクトーム、と呼ばれているとか。
(最近はとりあえずオームと呼ぶ傾向があるような・・・
グリコーム、メタボロームetc。
化学者がケミカロームとか、天文学者がスターロームとか言い始めたらヤだなぁ)

いつかは必要な作業だよね、とも思いつつ、
じゃぁフランシス・クリックが
「私は前障が全皮質に繋がっていることを見つけた」
というあの業績は何をやったの?
という単純な疑問も沸いてきます。

前記エントリーの「コネクトーム 1.0」に書いてあるように
「領域レベルの大雑把な神経回路を調べた」ということでしょうか。

でもそうだとしたら2005年になって今更なぜこの計画が出てきたのかよくわかりません。



最近とても疑問に思うのは、
脳の回路を超高分解能で調べて、そのあとどうやって解析していくのだろう、ということ。

膨大なコネクションがわかって、でそのあと何をすれば機能が「理解」できるのでしょう?

なぜこんなことを思うようになっているかというと
つい先日、mixiGraphというおもしろいソフトをみつけたことがきっかけです。

mixi に参加している人たちがお互いにどのように繋がっているのかを示すソフトです。

友人Aと友人Bは全く関係がないと思っていたら実は知り合いだったことがわかる、
など、1時間くらいは飽きずにソフトをいじることができます。

しかしですね、いじっていくうちに、画面上がもうイミフメイになっていくわけですよ。

私のmixi上の友人は約100人。
(ほぼ)全員をクリックして関係性を分析すると、
「人数5000人、結合10000」という結果が出ました。

つまり「友達+友達の友達」は合計でおよそ5000人、
それらはお互いに約10000の線で結ばれていることになります。

もう画面上はカオスですよ。
10000の線が交錯しているわけです。
分析も何もあったものではありません。

mixiの参加者は現在約1000万人。
コネクトームで、ミニカラムのコードを調べるときのノードの数に匹敵します。
全員の関係性を調べることは可能ですが、
で、結局調べた後で何をどうやって調べたらよいのでしょう??


たとえば、「日本に対してこのような態度を取れば(情報を入力すれば)、日本人はこう動く(出力する)」というような社会的機能を、人間関係の膨大なグラフからどのように読み取ればよいのでしょうか。


クラスター分析?
このあたりはまさにGoogleの出番なのかもしれません。
ドットコムバブルにアメリカが浮かれていた頃に、ひたすらウェブ構造を分析していたマニアな連中ですし。

しかしGoogleはウェブの「機能」でなく「構造」さえ把握できればそれでよかったのに対して、脳科学者は「機能」にまで発展させる必要あります。

ゲノムは全部わかったけど、その後どうしたらいいかよくわからん、
という遺伝学の状況が頭をかすりました。

いずれコネクトームは完成するでしょうから、
今からポスト・コネクトームのことを考えておくの無駄ではないかもしれません。

FOXP2ノックインマウスは声が変わる?

一昨日の霊長類研究所記念講演では、FOXP2の話も出たらしい。
しかも未公開データまで(少しだけ)見せてくれたらしい。

あぁ、行きたかった・・・ソフトボールやってる場合じゃなかったよ・・・


その講演者によると、FOXP2をマウスにノックインすると「声が変わる」とのこと。


ん?マウスにはもともとFOXP2があったのでは?
と思って確認してみたら、マウスにはFOXP2に「似た」遺伝子があるだけで、
ヒトのFOXP2はないとわかった。

興味深い実験結果ではあるが(早くPublishしてほしい)
FOXP2は転写制御因子だったはず。
(機能はよくわかっていないけれども)

そうだとすれば、制御される遺伝子群が同じでないと、
マウスにノックインしたところでヒトとの関連性を論ずるのは難しいようにも思う。


昨日の質疑応答の中で、松沢先生は
「自閉症は遺伝的なものでして、FOXP2という遺伝子の異常によって起こるのです」
と断言されていたけれども、これはいかがなものか。

FOXP2に異常があっても自閉症ではない人もいるし、
自閉症でもFOXP2に異常がない人もいる。
つまりFOXP2は自閉症の必要条件でも十分条件でもない。

他にも自閉症の原因として Neuroligin 4, Shank3, CADPS2, HOXA1
など多くの遺伝子が疑われており、これらを総合しないと「答え」は出まい。

加えて、自閉症が近年になって世界的に急増していることも考える必要がある。
真に遺伝だけが原因なら、急増することはあり得ない。
統計調査上の問題か(昔は自閉症の人も自閉症と診断されなかっただけ、など)
そうでなければ環境要因の関与も疑う必要があろう。
(環境要因とは、母親仮説ではなくて、近年になって増えた人口化合物による影響、という意味)

霊長類研究所40周年記念公開講座

昨日、京都大学霊長類研究所40周年記念講演に行ってきました。

講演中、何度も携帯電話を鳴らすジィサマや
質疑応答で論題と関係ない自説を大声でまくしたてるジィサマなど
マナーの悪い聴衆に苛立ちながら聞いていました。
(『一般講演』はこういう点が問題ですね。良識ある一般市民を遠ざけてしまいます)

しかし講演自体は面白かった。
冒頭でのアユム君のビデオは、私を含め全員が驚嘆していました。

画面上にランダムに配置された1~9の数字を順にタッチしていくタスク。
通常の人間より速いのですが、これは別に驚きません。

問題はその変形バージョン。
数字の1を押した瞬間、2から9までの数字はただの四角に変わってしまいます。
つまり1を押すまでに全ての数字の配置を覚え、正しく順番に押さなければなりません。

アユム君はこれを瞬時にやってのけます。
数字が現れてから0.5秒ほどで1を押し、その後も高速で2から9を押して行きます(数字は見えないのに)

すごーい。

無論、これをもって「アユム君のほうがヒトより賢い」という話にはなりません。
チーターのほうがヒトよりも早く走れますが、その事実をもって「チーターのほうがヒトよりも運動神経が良い」という話にはなりませんし。
知能や運動神経といっても様々な個別能力があり、種によって特異・不得意があるという話。


松井智子先生の話も非常に興味深いものでした。

サリーとアンのテスト(過去ログの注記参照)を変形させて、
様々な実験をしていました。

【“霊長類研究所40周年記念公開講座”の続きを読む】

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