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益川教授&堀場氏、金融工学の暴走を叱る?

今週の日経ビジネス(09.03.09号)に、ノーベル賞受賞者の益川敏英教授と、堀場製製作所の堀場雅夫氏の対談が載っていました。

タイトルは「金融工学の暴走を叱る」

対談の2割程度しか金融工学に触れていないのにこのタイトルはどうなのかと思いましたが、何せ読者がビジネスパーソンですから致し方ないかもしれません。

益川教授の「すごい人への憧れが人を伸ばしてくれる」という言葉や
堀場氏の「1週間に1度以上、感動を覚える体験をすべき」という言葉など
共感する部分もあったのですが、金融に関する議論には私の頭の中で異論が沸騰。

益川:最近の金融工学なんて、「あぶく銭」を稼ごうという発想ですね。あっちのお金をこっちに動かしてとか。だけども実需を伴わない限り絶対に価値は生み出せない。考え方がちょっと狂っている。

堀場:最近の経済危機で、結論が出たんじゃないですか。本当の意味で付加価値を生まない仕事をいくらやっても、単に人を騙しているだけです。もう一度、バーチャルから実業に戻らない限り、絶対に人類は成長しないという答えがはっきり出たと思うね。


どの「金融工学」を指しているのかわかりませんが、理論物理も似たようなものなのでは?

あっちの式をこっちに動かしたりしながら、実需を伴わない研究をしているように見えるのですけれども。

反論があるとすれば
「理論物理には実体が伴う」
「理論物理は長期的には実需がある」
という点でしょうか。

まず、そもそも「金融工学には実体がないから価値は生み出せない」という点は大きな誤解です。

たとえば保険も立派な金融ですが(AIGを挙げるまでもなく)、保険に「実体がない」からといって「実需がない」「価値がない」と主張する人はまれのはず。

お二人とも何らかの保険には加入してらっしゃるでしょうしね。

その保険会社は、必ずどこかで「金融工学」を利用しています。


次に「長期的な実需」という点ですが、「長期的には利益」という点は金融工学も同様で、金融工学の黎明から現在に至る約30年で、世界の富は大幅に増加しています。

人類の歴史の中で最も急速に成長した「実体」経済(堀場製作所も含む)は、金融工学の助けなしにはあり得なかったでしょう。

少なくとも、クォーク云々の研究の価値が実体化するよりも早く、金融工学はその価値を実体化できます。

益川:金融工学で使っている「確率微分方程式」なんか、我々が量子力学で使う計算式とほとんど同じなんですよ。だから、私から見ると、何をやっているかはある程度分かるわけ。計算式におぼれていると。
会社はそんな計算をするために大型のコンピューターを買う。そして、何十億円もかけたんだから立派な計算をしているに違いないと思っている。一見、複雑に見えますが、実にちゃちなことをやっているわけです。
 環境が同じような状態で推移している間は問題がないけど、社会的な常識ががらっと変わる局面になると全然使えなくなる。

堀場:どんな優秀なコンピューターでも、その条件設定を間違えたら、自爆するまで突き進むだけ。人間なら、上司から命令されたことでも危険だと思ったら自分で回避するでしょう。真っすぐ行けと言われても、向こうから汽車が来たら止まりますやん。それができずに爆発するまで走っちゃったのが、今回の金融危機でしょう。


計算式だけ見て金融機関が何をやっているのか分かると思い込むのも計算式におぼれているように思います。

私が現在の金融機関に来て、「金融は素人なので今から頑張って勉強します!」と上司に言った時に返ってきた答えは「ああ、教科書は役に立たないから、実戦で覚えてね」でした。

マーケットメークのための「模範的な計算式」はあくまで参考値であり、せいぜいケタが分かるだけで、ほとんどはバンカーやトレーダーの交渉能力で決まる、と。

素粒子は理論通りに動いても、顧客は理論通りには動かないということは当事者の方がよくわかっています。


「汽車」のたとえは、「向こうから汽車が来る」という状況設定がミスリード。

どうせ例えるなら、「複数の汽車が並んで競争し、崖に向かって突っ走るチキンゲーム」の方が正確です。

隣の汽車に負ければ、今後の修理予算を切られて中期的に死ぬ。
しかしこのまま突っ走れば全ての汽車が短期的に死ぬ。

滑稽であることに変わりありませんが、「前から突っ走ってきた汽車をよければよかったんだよ」というレベルの簡単な問題ではありません。


堀場:サイエンスでも、CO2(二酸化炭素)と地球温暖化の因果関係なんかがそうですね。CO2の量と地球の温度が上がっていた。それで温度上昇はCO2が原因であるという結論を出したわけですよ。
 それ以外の変数がものすごく少ないから、因果関係が完全に分かったわけではない。条件設定が違えば、いくらスーパーコンピューターを使ったって、間違えます。

益川:哲学と言ったら言い過ぎなんだろうけど、起こっている事象の背景にあるものに対する洞察力、批判能力みたいなものが非常に弱くなっている。だから100億円のコンピューターで出した計算結果には100億円の価値があると思っちゃうんですね。

堀場:理科系であろうが、文化系であろうが、基本的な自然科学というものを知らない人があまりにも多すぎる。だから疑問を挟まないんですよ。
 金融工学だって結局、ネズミ講と一緒じゃないですか。上の人は絶対に儲かるんだけど、人口が有限である限り、誰かがババを引く。小学生でもわかりそうなことや。今回はそれを仕掛けたやつらが先に自爆したけどね。


地球温暖化の二酸化炭素原因説をさも当然かのように否定する勇気には感服しますが(私も二酸化炭素原因説にはまだ完全には信頼しきれないのですが)しかし「小学生でもわかる」とまで言われるとちょっと。

ネズミ講と決定的に違うのは、「仕掛ける側」と「仕掛けられる側」の区別がつかないこと。

「仕掛けたやつらが自爆したけどね」とメシウマ調で語っていますが、仕掛けたやつらって誰でしょう?投資銀行?ファンド?

投資銀行もファンドも「仕掛ける側」であったのと同時に「仕掛けられる側」でもありました。

さらに、ファンドなどの運用資金の約半分は、年金や大学の基金などの「強欲とは無縁と思われている」出自を持ちます。

ファンドは、プルーデントマン・ルールにより年金機関から短期的な利益を追求する圧力を受けることになりました。

その意味では、年金基金でさえも「仕掛ける側」だったと言えるでしょう。
(無論、昨今の年金評価損からもわかるように、「仕掛けられる側」でもありました)

保険、年金、大学etc、お二人にも無縁ではなかろう機関も関係者であり、さらにこれらの機関が求めた利回りは、ネズミ講ほど怪しいものではありませんでした。

だからこそ、リーマン・ショックとは関係ないと思われていた、香港・台湾・シンガポールといった場所の年金基金が一部崩壊するなどの飛び火現象も起きるのです。

今回の危機のスキームは複雑に絡み合っており、とても「小学生でもわかる」ものではありません。

少なくとも私が小学生の時には、こんなことはわからないということはわかったと思います。


さらにマジレスすると、普段から何兆円規模の債券を扱い、自分の給料も何億円もあるようなトレーダーにとって、「100億円の価値」なんてちっぽけなものです。

その意味では「コンピューターが出した答えに100億円の価値があると思い込む」という指摘は正しいのですが、意味が逆。


益川:もっと早くから考えていれば、将来、どんなことが起こるか予測可能だったと思うんですよね。それに対する手当てを、誰も何もしてこなかった。
 確かに少々毒が混ざっていても、体力があるうちは健康でいられるんだけれども、何かの拍子で風向きが変わった時、一気に問題が出てくる。そもそも、サブプライムローンみたいな仕組みに対して、疑問を持たなかったことが問題ですよね。


「考えれば予測できたはず」という思い込み自体に疑問を持ちます。

わずか10年前、益川教授と同様にノーベル賞を受賞した学者2人が「早くからよく考えて」設立したLTCMは、簡単に吹っ飛びました。


今回の危機の一端とされるFRBの低金利政策にしても、グリーンスパンがこの政策を始めた当時、アメリカではデフレによる経済失速の懸念がありました。

もし金利を引き上げて不況に陥らせていたとしたら、やはりその場合にも「よく考えれば問題は回避できたはずだ」という批判が起こったでしょう。

現時点で経済学は結果論でしかなく、益川教授に今後の世界経済に起こることを考えてもらっても、おそらくその予測は当たらないと考えられます。



「私なら予測できる」

この思い込みを排除することが、暴走に歯止めをかける上で肝要だと思います。

自戒を込めて。
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