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レム睡眠の意味、大脳の自発発火の規則性、全てカオスが説明する?

『カオス的脳観―脳の新しいモデルをめざして』
津田一郎 著 サイエンス社 1990


一つ前のエントリーの続き。

若干、前言を撤回。
「カオスの先に何があるのかわからない」と書いたが、
カオスの特徴を知ると、知らない場合に比べて、
脳の様々な現象に「意味」を見出せるようになるのではないかと思い始めた。

本書には示唆的な例がいくつも登場する。

特に印象的だった のはNoise-Induced Orderの考え方。

Noise-Induced Orderとは、
「非一様なカオスにランダムノイズを加えると、
元のカオスに潜んでいた秩序構造が顕在化する」

という現象のことである。

簡単に表現すると、一見ランダムに見えるカオスも、
ノイズでフィルタリングすると規則性が見出せる、
ということである。

この一節を読んだあと、Shuzoさんのブログを読んで、
大脳皮質のノイズが長い周期で同期しているという論文を思い出した。
(Mao et al, Dynamics of spontaneous activity in neocortical slices. Neuron 2001)

それまでただのノイズだと思われていた大脳の自発発火に、
5分~10分単位での一斉発火が見出された。
神経同士が同期しているのである。

この論文を読んだ当初は、「ノイズの中に規則が埋もれている」と思ったが、
そうではなく「ノイズのおかげで規則が見える」のではないか、と思えるようになった。

規則性とは異なるが、「ノイズはむしろ有用」という意味ではJeffreyらの論文も興味深い。
(The Contribution of Noise to Contrast Invariance of Orientation Tuning in Cat Visual Cortex, Science, 2000)

この論文の内容は以下の通り。


視覚野では、光刺激のコントラストが強くても弱くても、その反応が変化しない。
しかし、スパイクが線形閾値関数を経て起こるなら、
コントラストが低下すれば反応幅も狭くなるため、
恒常性を説明できない。

Jeffreyらは、弱い刺激の時にはノイズが加算されることで
神経の反応性が高められる
と考えればこの矛盾を説明できると考え、
それを示唆する結果を得た。>


これらの論文を読むと、ノイズは無駄ではなく
それ自体が多様な機能を持っている感覚を受ける。


Shuzoさんのブログで紹介・解説されていた論文は大脳皮質ではなく視交叉上核である。
(Tom et al, Sleep states alter activity of suprachiasmatic nucleus neurons, nature neuroscience, 2003)

視交叉上核では、一つ一つの神経細胞がリズムを刻んでいる
(Welsh et al, Neuron 1995)
そしてそれらの神経細胞が結びつくことで規則的なリズムを生成していることが示唆されている(Liu et al, Cell 1997)

一つ一つが規則を持った多数の神経細胞が結びついて新たな規則を生み出す。
この過程はまさにカオスであり、カオスの考え方が
オシレーションに応用できるのではないかと妄想してしまう。

覚醒・レム睡眠時のほうがノンレム睡眠時よりも活動的であるということも、
「睡眠中は神経の情報伝達が遅い」という論文と併せて興味深い。
(Massimini et al, Science 2005)

なぜなら、津田氏による本書の中に、次のような現象も紹介されていたから。
「一次元ニューロン結合モデルでは、
この系に非一様カオスをつなぐと情報伝達が極めて効率が良いが、
ロジスティックカオスをつなぐと情報がすぐに失われる



クリックによる「レム睡眠の機能」が解説されていておもしろい。

ヘブ則を持ったホップフィールドネットワークモデルで
神経ネットワークの「安定」「準安定」状態などを計算していくと、
以下の2点を説明できるとしている。

1)レム睡眠で記憶が強化されることを説明できる
2)なぜレム睡眠では非日常的な夢を見て、ノンレム睡眠では常識的な夢を見るのかが説明できる


クリックが実に多様な脳科学分野に手を伸ばしていたことが伺える。




確かにカオス理論自体はまだ直接脳科学に応用できないかもしれない。

しかし本書にあるように
「カオスは、この世のいかなる複雑な事象にも
規則性が潜んでいるという信念を与えてくれる」
ならば、
実験中に見られる「ノイズ」にも意味を見出せるようになるかもしれない、
と思ってしまったのである。


カオス、もう少し勉強してみたいな。

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コメント

TBありがとうございました。stochastic resonance(確率共鳴)という現象をふと思い出しました。こうなると、もやは「ノイズ」というより「ゆらぎ」など別の表現をした方が良いかもしれないですね。いずれにせよ、million dollar questionですね、この問題。

>Shuzoさん

こちらこそ、いつも大変ためになる論文紹介、ありがとうございます。

確率共鳴も興味深いですね。
本書の中にも確率の話は随所に出てきます。
初期条件が確率的だったり、情報処理が確率的だったり。
その確率の分子的本質がまでは全く言及がありませんでしたが。
つきつめると本当に量子論的確率論になってしまうのでしょうか。

「ゆらぎ」も最近の脳科学系の論文では一つのキーワードになっているように思います。
10年ほど前に流行った「1/fゆらぎ」を想起させます。

あ、私が「確率共鳴」と言ったのは、閾値付近でゆらいでいるノイズがあると、ショボい信号でも簡単に閾値を超えてくれて、情報のSN比が上がる、といったたぐいの意味です。

が、話のついでに、、、

> つきつめると本当に量子論的確率論になってしまうのでしょうか。

どうなんでしょうね。私個人的な意見は、アナロジー的に考えるのは良いとは思いますけど、例えば、意識と量子力学を結びつけるのは、かなり強引な気がしています。Kochのように、「ニューロンが意識のatom」という位置づけくらいで留めたいです。おそらく、量子力学こそが「究極理論」と勘違いしている人がそういう(意識は量子力学でないと説明できない)錯覚に陥ってるのでは?と思います。量子力学、生命を相手にすると、何の役にも立ってない気がします。。。。少なくとも、遺伝コードの理解に量子力学はいらないわけですし。。。

それはともかく、ニューロンが何らかのネットワークを形成すると、まだ想像できない「何か」が起こっているのでは?と空想しています。それ以上は、、、知りません。。。

それから、1/fゆらぎ、おそらく流行が終わったというより、手に負えないから、現象の報告だけで「一時休止中」なのかもしれませんね。脳以外でも見れる現象ですし、自然のすごさを感じますね。

ちなみに、G Buzsakiが昨年出版したRhythms of the Brainは、そのあたりの議論も出てきて、超おすすめですよ。かなりアブストラクトな議論も展開していますから。

>Shuzoさん

私も、意識研究の上で量子論にこだわるのは(少なくとも戦略上)あまり好ましくないと思います。
仮説として読んでいる分には楽しめるのですが。

私は、全ての現象は「究極的には」量子論に帰着すると信じている立場にはおりますが、それはあくまで「究極」の話であって、学問の枠組みは学問によって異なることを留意する必要を感じています。
たとえば同じ物理学でも、航空力学の枠組みは古典力学で十分なのであって、航空力学に量子論を持ち込むのは飛躍が大きいと考えられます。
おそらく意識の研究における量子論の位置づけも同様なのではないかと感じています。

個人的には「atom」よりもう一段小さい、「electron」レベルのタンパク質・ペプチドetcにも触れながら説明しないとどこか気持ち悪いのですが。

Rhythms of the Brainは、数ヶ月前にAmazonのショッピングカートに入れたまま、値段と言語のエネルギー障壁が高かったため放置されていました。
Shuzoさんの評で閾値を越えたので、今から購入します。
ありがとうございました。

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【BOOKS】『カオス的脳観』:脳を "理解する"とはどういうことか

『カオス的脳観―脳の新しいモデルをめざして』津田一郎著 サイエンス社 1990脳、というよりニューラルネットワークにおけるカオス性について、その「考え方」が解説されている。カオスに疎くても、カオスが脳

非一様カオス

昨日の続き。 http://d.hatena.ne.jp/hihi01/20070303/p2 非一様カオス 「一次元ニューロン結合モデルでは、 この系に非一様カオスをつなぐと情報伝達が極めて効率が良いが、 ロジスティックカオスをつなぐと情報がすぐに失われる」 http://brainscience.blog92.fc2.com/bl

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