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【BOOKS】『解剖男』:遺体は語る

解剖男 解剖男
遠藤 秀紀 (2006/02)
講談社

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遠藤秀紀著 講談社現代新書 1828 2006年

ちょうど1年前に出版された新しい本だが、今では置いている書店はあまりない。

がしかし、アマゾンでの評価がとても良かったので買ってみた。

評判に違わず、おもしろい。
解剖学を勉強すればするほど「構造は機能を表す」ということを感じるが、実際に本書ではこのフレーズが何度も出てくる。

本書で扱われているのはほとんど動物。
これまでヒトの解剖学しか勉強していなかったので新鮮だった。

ヒトの解剖学を学ぶだけでももちろん勉強になる。
しかし他の動物の骨格・臓器と比較すると、ヒトの構造の特徴が浮き彫りになる。
外国語を勉強すると日本語の特性がわかるのと同じようなものだろう。

鎖骨一つとっても、一部のサルはヒトよりも鎖骨が発達しており、
逆にキリンなどは鎖骨がほとんど消失している。
このことから、解剖学者は様々なことがわかる。

著者に言わせれば、頭蓋骨が最も多くの情報を引き出せるそうだ。
「未知の頭蓋骨でも、本書の3倍の情報量を引き出して見せよう」と胸を張る。
職人技ともいえる観察眼には恐れ入る。


がしかし・・・

動物の解剖学を勉強しようとしても、大きな書店でもほとんど置いていない。
やはり筆者の言うとおり解剖学という分野が虐げられてきたからか。


本書の全般にわたって、解剖学自体ではなく、「以下に解剖学(著者は遺体科学と名づけている)が虐げられてきたか」が前面に出ている[1]。

解剖学は、遺体を研究するという闘いを放棄したのだ。
(略)実験材料が欲しいだけの研究者から、動物園や博物館を見下すような姿が垣間見え、残念に思われる。
(略)ナチュラルヒストリー(博物学)は、情報科学への奇妙な投資のバイアスを、なんら是正するリーダーシップを振るうことができなかった。
その結果、インフラへの財政誘導の方便が、実際に十年後の博物学の“次の手”を封じ込めてしまっているのではないか」


このような批判が、丸二章をかけて語られる。
私自身が最近まで博物学・解剖学を「一つ下の学問」と見てきた節があるため、反省を促された[2]。


惜しむらくは、「学問に優劣などない」と言う筆者自身が、
他の学問を軽蔑している(ように思える)ことか。

「大きな加速器を使って素粒子の真実を突き止めようとする
実験物理学者が、実験装置を相手にすることなしに、
仮の結果を脳裡でくみ上げることはないだろう。

遺伝子を扱う分子生物学者にとっても、物の成り立ちを
見出そうとする量子化学の研究者にとっても、
脳裡で想起する戦の相手が、現実のイメージに
近づいていることはないだろう」


これは大きな誤解である。
素粒子物理学者、
遺伝子工学者、
量子化学者、

みな頭の中で実験の中で起きていること、起きるであろうことをイメージしているし、できる[3]。


差別されてきたが故に、逆に相手を貶めてしまうようになったのなら哀しい。
「人は闘うと敵に似る」という法則がここでも正しいように思える。


闘うことでなく、学ぶことによって自分の中の偏見を取り除いていきたいと思う。



<補足>
[1] とは言っても、なんだかんだ言って著者は東大卒。「語る言葉を持つ弱者」である。「言葉を持たず、社会から認知もされない弱者」とは、言うまでもないが、世界が違う。

[2]数年前、自分の大学に「動植物分類学」という研究室があり、その意義が全くわからなかった覚えがある。正直なところ、「そんなことやってどうするの?」と思った。
がしかし、1年前に読んだエルンスト・マイアの『これが生物学だ』に、分類学への偏見に対する反論があり、はっとさせられた。

以下、要訳。
「分類はあらゆる分野で情報システムの鍵である。
分類学的研究がすべてとは言わないまでも多くの生物学分野にとって不可欠であること
を考えると、近年それがどれほど無視され、低い地位に置かれているかに驚かされる。

事実、比較解剖学から比較生理学まで、
最終的に分類学の発見に全く基づかない比較生学分野は存在しない。

生物学分野における分類学の多面的な役割は次のように要約される。

1. 現存生物の多様性のを示す唯一の科学である

2. 生命の系統を再構成するのに必要な情報のほとんどを提供する。

3. 多くの興味ある進化現象を明らかにし、生物学分野の因果解析に利用可能となる。

4. 生物学の全分野が必要とする情報をほとんど独占的に供給する。




[3]素粒子物理学は最初から脳裡で決定された「決まりごと」に従う学問なので、脳裡でイメージできないことはない。
ただそのイメージの質が通常とかけ離れているだけである(11次元などをどうイメージしているかは物理学者によるはず)

遺伝子工学は私自身がやっていて証言できる。

量子化学に関しては、『実験室の幸福論―悩み多き大学院生への助言』という本に載っていた。

電子雲をイメージできる彼らによれば、金属は柔らかいらしい。
(本書は実験に携わる者への励みになる)
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