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【紀要】言語の起源をテナガザルから探る

生物学科の学内紀要がなかなかおもしろい。

正高信男さんの報告は「テナガザルの歌に言語の起源をさぐる」。

どうも正高さんはデータから言えることを逸脱した仮説を提唱する傾向があるように思うのですが、新しい考え方を提示してくれるので好きです。


今回のテーマは言語の起源。

「言語の起源を実証科学で解答を出すのは、大変難しい」と断りつつ、

その理由は
「化石は行動の進化に関してほとんど何も語らない」
からとしていて、

「よって現生の霊長類の行動にモデルを求めるのが重要」
としています。

最初の方向性の妥当性からしてよくわかりません。

現生の動物が、進化の分岐点での特質を保持している保証ってあるのでしょうか。

たとえば動物AがBに進化して、AもBも生き残っているのならAを調べることで進化の過程はわかるかもしれませんが、
AがBとCに分かれて、Aが絶滅した場合、BやCを調べても進化の過程はわからないのではないかと思ったり。

まぁそんなことはおいといて。

氏が観察したことは、
「進化の過程に沿って、テナガザルの歌い方が複雑になっていく」というもの。


テナガザルはグレート・コールと呼ばれる「歌」を歌うわけですが
(数十分にわたり歌い続け、数km先でも聞こえるらしいです。すごい。)

系統的に古いフーロックテナガザルはオスとメスが同時にデュエットするのに対し
系統的に新しいアジアテナガザルはオスとメスが交互に歌う
そうです。

つまりオスとメスが歌うパートを分担している、と。
しかもパートを変わるタイミングがスムーズで、同一の個体が歌っているようにさえ聞こえる、と。

そこで氏は考えた。
「同時に歌うのと交互に歌うのはどちらが難しいか?」

「交互に歌う方が難しい。相手の歌う速度・リズムを記憶し、自分のパートも認識しなくてはならなくなる。」

「このような複雑な情報処理は、人間の脳では感覚性言語中枢しか報告がない。」

「実際に人間でも、『自分の話はできるが相手の話がわからなくなる』種類の失語症患者は感覚性言語中枢に障害がある」

「テナガザルは類人猿よりも感覚性言語中枢が発達している可能性がある。(今後調べる)」

「加えて、テナガザルの歌は鳥の歌とは全く違う。
鳥の場合は、歌自体がプログラムされていて、一度プログラムが起動したら全てを歌い続ける。

テナガザルは、デュエットの相手がいない場合でも、自分のパートだけを切り離してソロを歌うことができる。

音の記憶という形で、脳の中に貯蔵した時系列パターン情報の中から、ある部分だけを取り出し、発声しようと思って発声しているとしか考えられない」

「この現象はヒトの赤ちゃんの言語獲得にも見られる。

赤ちゃんは、単語から文章を組み立てるのではなく、
まず大人の発した文をメロディーに乗せて聞き取り、その中からお気に入りの単語を切り離して適当に話す。
やがて単語からメロディーが取り除かれ、言葉として習得する。」


なんとも。

突っ込みたいところがたくさんあるわけですが。

パートの切り出しと赤ちゃんの単語切り出しの類似性がよくわからない上、
赤ちゃんがそのように言語習得をしているという点も疑問だし・・・

何より、氏に限らず、ほとんどの言語理論が「手話」に触れていないことはいつも残念に思います。

手話も完全な文法を持っていて、他の動物がまねできないことを考えると、
手話なしに言語の起源を考えるのは危険なのではないかと思ってしまいます。

「音声」が言語の本質で、
「メロディ」が言語獲得に重要なのであれば、
聴覚に障害のある赤ちゃんはどのように文法を習得しているのでしょう?

また、「感覚性言語中枢」に障害がある失語症患者が、自分から発生するのは問題ない、という点も疑問です。
文法機能がないと自分から言語を発するのも無理だと思うのですが。

(ちなみに、英語圏では、規則動詞は言えるが不規則動詞を使えなかったり、その逆だったりする興味深い『文法失語症』患者がいます)



もしかしたら遠慮深謀があるのかもしれませんけれど。

私が「チョムスキーの生成文法理論を科学的に証明したい」と言ったら
とても興味を持ってくれて、「君の言いたいことはわかるよ」的な雰囲気でしたし。
ラボの助教授さんは生成文法を研究しているらしいですし。



ちなみに「なぜ研究対象がチンパンジーでなくテナガザル?」
と思われるかもしれませんが、これは正高さん固有の話でなく、
霊長類研究所においては「チンプは頭が悪い。今はテナガの時代」
というのがコンセンサスになっているようです。
研究所に見学に行ったときもそうでしたし、この紀要もテナガであふれています。

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