病は気から:ノセボ効果研究の現在
When words are painful:
Unraveling the mechanisms of the nocebo effect
Neuroscience 147, 2007
「病は気から」という諺は、
「病は気から治る」という意味と
「病は気から始まる」という意味の両方で解釈ができます。
前者の、薬ではないのに「これはよく効く薬です」と言って飲ませると治ってしまうのがプラセボ効果。
後者の、毒ではないのに「これは体に悪い薬物です」と言って飲ませると本当に体調を崩してしまうのがノセボ効果。
このレビューは、ノセボ効果のメカニズムがだんだんわかってきた、ということを報告しています。
なぜプラセボだけではなくノセボ効果も重要かというと、医者が「この薬は副作用があります」と言ってしまうことで、言わなければ発現しなかった症状が出る場合があるからです。
無論、副作用のことを知らせずに飲ませるわけにはいかないので、「ノセボ効果があるから説明しない」という方向にはなりません。
よって、副作用のことを知らせつつ、ノセボ効果だけを軽減できる方法があればベストとなるわけです。
しかもノセボ研究はプラセボ研究よりも倫理的に実行が難しいという特徴があります。
プラセボ効果の場合、被験者が本当に治ることは特に問題がありませんが
ノセボ効果の場合、本当に体調を崩してしまったら医者の責任が大きく見えてしまいます。
(プラセボでも、治らなかった群は機会費用を損失しているので同値の気がしますが)
よって、最近のノセボ研究の成果は素晴らしい、という趣旨になっています。
レビューの大意としては以下の3点。
・不安を煽る言葉をかけられた患者は、コレシストキニン(cholesystokinin, CCK)が活性化する。
・CCKは痛みを誘発する
・CCKのアンタゴニスト(たとえばproglumide)は、この不安に誘導される過剰な痛みを阻害することが判明。
CCKアンタゴニストは臨床に応用できるのではないか。
"word stimulus"という表現が新鮮でした。
言葉をもリガンドとみなして真面目に研究しているのがおもしろい。
「音の構造」が脳内でどのように処理され、生理学的アウトプットに結びつくのかは非常に興味があります。
(無論、この論文でもそこまでは触れていません)
以下、面白いと思った点。
・本物の鎮痛剤を与える前にプラセボ薬を飲ませると、鎮痛剤の効果が落ちる
・本物の鎮痛剤を与えた後にプラセボ薬を飲ませると、プラセボ薬の効果が上がる。
・痛みが来ることを予測してから痛みを感じると、痛みが増幅される。
(気付かないうちに怪我をしていたことを知った瞬間、急に痛みを感じるようになるのも同じかな?)
・痛みを予測している間、前帯状皮質(ACC)、前頭前野、島の三領域が活性化した。
・プラセボ薬は線条体におけるドーパミン放出を抑える
・プラセボ薬は視床下核の神経の活動を抑える
・モルヒネを投与する際も、「今からモルヒネを投与しますよ」と言ってから投与するのと、患者に気付かれないように投与するのでは、前者の方が鎮痛効果が高い。(グラフを見ると、後者ではほとんど効果がないようにも見える)
・placeboはラテン語で I shall please。Nocebo はラテン語で I shall harm の意味。
コメント
>なぜプラセボだけではなくノセボ効果も重要かというと、医者が「この薬は副作用があります」と言ってしまうことで、言わなければ発現しなかった症状が出る場合があるからです。無論、副作用のことを知らせずに飲ませるわけにはいかないので、「ノセボ効果があるから説明しない」という方向にはなりません。よって、副作用のことを知らせつつ、ノセボ効果だけを軽減できる方法があればベストとなるわけです。
おお、ごもっとも、そして分かりやすい。
仮に診療現場でのトーク術に期待するとすれば、お医者さんも大変だなあ。
町医者ならともかく、総合病院のヒエラルキー下で働いてる医者には、どうしても効率的な治療ばかりに目が行ってしまいがちな人も多く含まれるかも知れませんが、ノセボ効果に歯止めをかけつつインフォームドコンセント的な意味で医者と患者の情報交換を促すには、どんな制度設計ないし工夫が良いのか、気になります。
>naoki
そうそう、これまではお医者さんのトーク術がノセボ効果を軽減していたのです。
「あなたならきっと大丈夫ですよ」的な。
それでもネガティブ思考な人はいるから、なんとかせねば、と。
今後は医療訴訟も増えるでしょうから、安易に「大丈夫ですよ」と言えなくなってきている現状も踏まえる必要がありそうです。
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