バイオ院生、投資銀行へ

とある外資系の投資銀行に内定しました。

多くの点で魅力的なので、そこに行こうと思っています。

部門は投資銀行部門。

会社を売ったり買ったり切ったり貼ったりするところです。

DNAワークの会社バージョン(違。


なぜここにしようと思ったか?

1. 業務内容が将来につながりそう(?)

将来、研究活動の評価機関を作ったり研究室経営のコンサルティングをしたりする上で、お金の流れを把握しておく必要がどうしてもあると考えました。

投資銀行の業務はつまるところ「資金調達」であり、世の有り余る金をどのようにしたら不足地帯に流すことができるのかを知りたいのです。

また、コンサルティングよりも、現場のどろどろした部分を見やすい、という点も魅力的です。

私には、人を動かす力が欠けているようでして。

それが求められる環境に身を置きたいという気持ちがあります。

マ○キンゼーのジョブプログラムでも、私の課題(欠点)は『論理で人を動かそうとするところ』『自分と同等以上の人とだけチームを組もうとするところ』と言われました。

どんな人であっても動かせる人間力がないと組織なんて組めないよ、とも。
ごもっとも。

私は論理力にも欠けるとは思っていますが、確かに論理で人を説得しようとする傾向は強いので、そこは改めたいと思います。

ただ、投資銀行では最初の数年はあまりクライアントに関わらなさそうではあります。

むしろ二流のコンサルの方が、実行支援までしているのでそちらの方が良いのではないかといわれればその通りなのですが。


うーん、でもコンサルもIBDも働く時間が同じくらいなら・・・お金とネームバリュー・・・

下積み時代があることに疑問は感じませんし。


2. 人が魅力的

ここははずせません。

メーカーや研究室と違って、銀行なんてやってることはみんな同じです。

異なるのは人だけ。

となれば、見るべきポイントは人だけ、とも言えます。

私の場合、超優秀な人が上司についてくれることが内定前に決定していました。

その人に教えられるなら入りたい、と思ったことが大きな決定要因です。

しかも私を役員面接に上げることを推薦してくれたのはその人らしくて。

やっぱり嬉しかったんですよね〜。


3. 海外との交流が活発

意外に、外資系の会社だと海外に出られないということが往々にしてあります。

なぜなら、海外には現地職員がいるため、日本人を送り込む理由がとても薄いからです。

とある投資銀行は、人がステキだったのですが、国家間の壁が高そうだったのでやめました。

その点、今回内定した会社は、新人研修がニューヨークだったりロンドンだったりする上、業務もグローバルにローテーションできるシステムもあるので魅力的でした。

やはり、今後自分が仕事をする上で(もしくはプライベートであっても)自分の判断には世界の趨勢を反映させたいのです。




逆に不安といえば、まず何よりも体力。

『9時-5時』勤務に耐えられるか大いに疑問。
(↑どっちもa.m.)

あとは、優秀な人が上司なのは有難いけれど、その期待にこたえられるかな、ってところ。

いま頑張って企業価値評価やら簿記やら法務やら勉強していますが。

これはポジティブな不安なので解消しようとは思いませんけれど。



意外に早く終わってしまいました、就職活動。

こんなのでよかったのか?という気が若干しつつも、
それなりに悩んだ期間はあったので、たぶん良いんだと思います。

就職活動を通して思うことは多くあるので、それはまた後日。

東西の壁、海の壁

就職活動をしていて強く思うことの一つは、

非・関東圏にいることの不便さ

です。

多くの説明会・懇親会・試験・面接が東京で行われるため、東京近辺に住んでいない人は往復にかかる時間により非常に大きな機会費用の損失を被っています。

往復の時間があれば、他社の選考プロセスを受けることが可能だからです。

私の場合、東京往復にかかる時間は最低6時間。

これだけの時間があれば試験や面接を最低1つは受けられます。

複数のイベントが同日に重なったとき、「これが同じ場所なら、時間差でどちらも参加できたのに」と思うことは一度や二度ではありません。
今後、そう思うことはさらに増えるでしょう。


もっと会社を絞ればいいじゃん、という意見がありますが、
むしろ会社を絞るために会社のイベントに行く必要があるのです。

特に、説明会や懇親会といったイベントは会社の内情を知る良い機会ですが、こういったイベントほど日程に融通が利きません。
融通が利くのはせいぜい個人面接以降の話です。

よって、個人面接に進むまで会社を切る判断材料さえない、ということが多々あります。

業績などの客観的なデータなら調べられますが、社員の「人となり」はやはり会ってみないとわかりません。
やはりそこで働いている社員が自分に合うかどうかを知らずに入るのは危険だと考えています。


だったら最初から東京の大学に入って入ればよかったじゃないか
という意見は尤もだと思います。

私も大学を選ぶとき、就職を考えなかったわけではありません。

しかし、私のように、高校時代の「やりたかったこと」が大学生活の中で変化することは十分にあるわけです。

私の場合、科学者を目指していましたから、その意味で現在の大学を選んだことには何の間違いもなかったと思います。
実際、これまで研究上の不便を感じたことは一度もありません。

もしくは、大学に入るまで将来の職を決めていなかった人だって多くいるわけです。

こういった人たちは、仮に有能であっても、著しい機械損失を免れません。


ただ、有能な人ほど幼少時代から確固たる将来の目標を持っている場合が多いことは確かです。

よって、企業戦略として、「大学時代に将来の目標が変わった有能な人物」というレアなケースにコストをかけるのは得策ではない、という論理はよくわかります。

よって企業に「もっと地方に目を」と言うつもりは全くないのですが。


そもそも、不利ならその業界を受けなければよい、という考え方もアリです。

一部のメーカーに関しては、東京よりもむしろ地方にいたほうが有利、とい状況は実際に存在します。

ならばそういう会社を受ければ「地の利」を享受できるのですから、そちらを選んだらよいと考えることもできます。

大体、東京の会社を受けるにしても、私は「日本にいる」という地の利(場合によっては「地の不利」)を受けているわけです。

ならば、ある程度最初から選択肢を切らざるを得ないのは仕方がありません。

その意味で、「いま、自分がどこにいるのかを考えよ」というアドバイスは、自分のスキルや性向といったコンセプトの話のみならず、物理的に「どこにいるか」も含まれるということに気付きました。



もう一点、これらのことを考えるうち、「今後、情報インフラはもっと発達する」とも感じました。

地理上の不便を感じるのは、そもそも「東京には職がある」という情報が中途半端に存在するからに他なりません。

存在を知れるようになっただけでも、情報化の功績は大きいのは確かです。

試験にしても、ウェブで受けられることが多くなったのも情報化のおかげでしょう。

しかし、まだまだ足りないと思うのです。

それこそ、3D電話などができて、本当に目の前で社員の人が喋っているようなリアルさで会話ができたなら、東西格差も縮小されるでしょう。

そしてそのように情報化が進んだ先にある最後の壁は、おそらく「言語の壁」と考えられます。

現在、世界中のサイトにアクセスできるにもかかわらず、日本人のほとんどは海外のサイトにアクセスしません。
外国語、特に英語ができないからです。

海外の人々ともっとリアルにコミュニケーションが取れるようになったところで、この壁はどうしようもありません。

昨日私が受けた面接も、3時間中1時間は面接官が外国人だったのでずっと英語で喋る必要がありました。

英語を練習する必要性を強く再認識しました。

普段、英語を読んだり聞いたりするのはある程度できてしまうため錯覚しがちなのですが、喋る能力は全く別です。

日本国内の東西の壁を嘆く暇があれば、海の壁を越える訓練をする方が得策だな、と感じた次第です。

イギリスの『化学』事情と、シエラレオネの教育事情

イギリスで化学を専攻している友人が嘆いていました。

「最近では chemistry がマッドサイエンティストの代名詞みたいになっとる!

メディアで chemistryという言葉が出てくるのは『化学兵器 chemical weapon 』の時だけ!

抗がん剤ができたら『医療の目覚しい進歩 breakthrough in medicine』、

伝道樹脂ができたら『材料科学の進歩 advance in material science』、

高温超伝導の時には『低温物理学の研究 study of low-temperature physics』、

全部 chemistryやないか!!



一般に『化学物質 chemical』というと『食料に含まれている有害な添加物』というイメージがあるらしく、もしその化学物質が体に良いなら

“anti-oxidant” とか “preservative”とか、

とにかくchemicalという言葉を使わないように表現されている、と言っていました。


化学のイメージも落ちたものです。

そのうち 、biologyと聞けば「生命をもてあそぶマッドサイエンティスト」というイメージが出来上がったりするのでしょうか。




また、シエラレオネで教師をしていた人はこんなことも言っていました。

「彼らは教育を切実に求めていた。

でも教育を受けて資格を得ても、社会に就職口がなくて結局は無職である場合が多かった。

彼らにとっては村に戻ってまた農業をすることは『敗北defeat』だったため、職の斡旋をさらに難しくした


なんだか日本の博士・ポスドク問題を彷彿とさせました。

 教育は得たけど職はない。
 教育を生かせない職に就くのはプライドが許さない。

みたいな。


さらに続けて言うには;

「でも歴史が教えるように、革命っていうのは『教育を受けた無職』によるものが多い

フランスやロシアが好例だよね。

普通の農家はただ耐えるだけだけど、教育を受けると“野望と期待”が生まれてしまう。

だから、職の受け皿のない教育はむしろ社会を不安定にする。

シエラレオネも革命が起こるかもね」


革命!

日本人にはない発想です。

そういえばピューリタン革命も知識人によるところが多かったのかな。
(でも無職ではなかったような)

ということは、そのうち全国のポスドクが蜂起して・・・


そんなわけないか。



しかしなぜ教育のある彼らが「職を作る」ことができないのか不思議です。

そこまでのノウハウはないから?

だとすれば問題は教育の存在ではなく、教育のレベルが中途半端であることなのかもしれません。

日本のポスドクも、起業できるくらいのノウハウも一緒に教え込めば職が一気に増加して・・・


いや、そもそも『非アカデミア=敗北』という雰囲気の中では、非アカデミアである起業の分化なんて醸成しないのかも。

就職することにした理由

久方ぶりの更新になります。


過去3ヶ月何をしていたかといいますと、

就職活動

をしていました。



はい、就職することにしたわけです。

半年前までは98%博士まで進む意気込みでしたが、
わずか半年で98%就職という状態に。

過去3ヶ月、書くことがなかったわけではなく、むしろ書きたいことがありすぎたのですが、私としては具体的な会社名を挙げて書きたかったので、責任回避の観点からSNSを利用していました。


以下に、就職することに決めた理由を書き留めておこうと思います。


1.ポジティブな理由

 1.2全人的に成長したい

 最初に「就職したい」と強く思ったのは、立て続けに魅力的な社会人とお会いした頃からでした。これが3ヶ月ほど前。

 その方々は、世界を俯瞰する視野を持ち、確固たるヴィジョンを持っていました。

話の構成や内容も論理的でした。

多忙の中、無償で一学生の私に対して何時間も時間を割いてくださいました。

過去に何度も苦難を乗り越えながら組織を動かしており、人を動かす力に優れていました。

そして私自身が「動かされた」一人になってしまったわけです。

社会でもまれないと、この力はつかない、そう思いました。

多くのトップクラスの人々に囲まれていないと、成長曲線は緩いままだ、とも思いました。

わずか数時間で、ラボで過ごす時間の何倍も「自分の成長」を感じられたからです。


実際、この見込みは間違っていなかったと思います。

会社さえ選べば、「トップクラスの人々に囲まれて、急激な成長曲線を描ける」という環境は夢ではないと感じました。

実際に、とある超一流企業のインターンに行って確信しました。

わずか1週間ながら、得たものは本当に大きかった。

ただ、誤算(?)だったのは、彼らのレベルがあまりに高く、私自身が彼らの要求水準に達していなかったこと。

これまでもっと自分を鍛えてこなかったことを悔やみましたね。

当然ですが、「他の学生と比べて」優秀でも何の意味もなく、「人間として」優秀でないと話にならないということを痛感しました。


そのインターンから帰った後は、さらに「就職しなければ」という意思を強くします。

研究室という空間は、会社とは別の次元で存在している、そう思わせました。


 1.2将来は研究室をバックアップするシステムを構築したい

この点については追々詳しく書きますが、ほんの少し外の世界を垣間見ただけで、研究界の問題はさらに鮮明になってしまいました。

・資金分配の手続きが不透明
・研究業績の評価システムの不在
・人材育成システムの欠如
・研究室経営の改善システムの欠如

どれも会社では論外です。

ただ、論外であるが故、内部の自浄システムが働くか、もしくは外部から監査やコンサルタントが入ることによって改善していきます。
そうでなければつぶれます。


研究室とは言っても、中規模以上のラボは中小企業並の資産規模があるのですから、中小企業診断士みたいな人が経営をアドバイスしても良さそうなものです。

しかしそのようなものは存在しない。

そもそも研究の評価自体が困難を極めるからです。

企業の場合、「売上」「コスト」など、数値化が極めて容易な要素を分析したら良いだけなので、評価はさほど難しくはありません。

しかしながら、研究自体の評価は現時点で数値化するシステムがありません。

(まさかIFを使うわけにもいかないし)

これにより、政府による杜撰な資金分配や、PIによる腐敗した経営を許してしまっていると考えられます。
なぜなら評価不能だから。
(その意味で、上記の「杜撰な」「腐敗した」という表現を使うべきではありません。評価できないのですから。しかし少なからぬ人がそう思っていることは事実)


よって、これらの問題の解決のため、研究の評価組織が必要と考えます。

S&P、ムーディーズ、R&Iのような組織の、研究バージョンです。

これにより、政府は評価の高いラボに対して資金を送りやすくなるでしょう。
評価の悪いラボに対しては、コンサルタントが入ることもできるでしょう。


ここまでの問題意識は、ボスと共有しました。

ただ、細かいところでボスとは意見が違います。

ボスは、以下のような方法を考えているようです。
「優秀な研究者を大量に集め、それぞれに対して額の大きな謝礼を払い、かつ匿名でその分野の研究の評価をしてもらう。それらの評価を総合する」

これにより、審査員一人ひとりの政治的バイアスは平均化され、
全体としては最も優秀なものが選ばれるだろう、というものです。
そしてこの評価組織は民間が複数つくり、互いに競争させる。
これで、評価組織が腐敗することも防げるし、評価の質も高くなる、としています。


対して私は、評価方法を極力定量化するべきだと考えています。
それこそ経済学のように。
IFは使い物にならなくとも、何らかの形で「数値」として出るような方法を確立したい。

なぜか。

一つは、評価の透明性が高くなるからです。

ボスのアイディアのように審査員に任せた形で匿名で評価させると、今度は評価組織側の政治的バイアスがかかりやすくなるように思います。
匿名であるが故、全研究者に対して特定の指向を持った評価をさせることも可能になるように思います。
複数の評価機関に競争をさせればいいと言いますが、もっとも政治力のある機関が寡占してしまったらどうするんでしょう?


もう一つは、客観的な評価は研究を投資市場とつなげる可能性があるのではないかと考えているからです。

研究のリスクの証券化

たとえば、ある研究者が、1000万円を使って何らかの研究をしたいとします。
そして企業に対し、「もしこの研究が成功したら、1200万円の資金をくれ。成功したらこの業績は御社の業績にして良い。失敗したらお金は要らないし、責任も御社にはない」と言うわけです。

そして最初、この1000万円は証券化して株式市場から資金を集めます。

たとえば1000人から1万円ずつ集める。

そして、この研究が成功すれば、1000人それぞれに1万2000円を渡す。
失敗すれば、各々が1万円の損をすることになります。

これにより、企業は失敗のリスクを負わなくて済みます。
成功した研究にだけお金を払えばいいのですから。

同時に、投資家も、ポートフォリオを組めばこの証券に投資をする可能性は十分にあります。リスクが減りますから。


そしてこのときに重要なのは、「成功」をどう定義するか。

通常の投資は、「利益が上がった」など、もともと数値化されていますが、
まさかこの研究投資は「研究者達が主観で選んだ」などとは言えません。
客観的な数値化が必要になります。


このシステムができれば、今とは違って小規模の研究もできるようになると思うのですよ。
それこそ、小規模の会社に投資するのと同じようなものですから。
現状の地方大学のように、コピー代さえもないという状況はかなり改善されるのではないでしょうか。


この私の案に対しボスは、「研究業績の数値化自体が不可能だ」と切り捨てます。
まぁ、その思ってしまうのもわかります。

しかし、科学なんて要するに自然の数値化の作業なんですから、自然の一部である人間の営みの数値化が不可能だなんて、そんなことはないと思うな。



とにかく、この部分は議論中です。

ボスには、「まず君がノーベル賞を取るなり何なりして権威を獲得すれば、評価機関も創りやすくなる」と言われました。

学振を超えて「まずノーベル賞」とうアドバイスが素晴らしい。
でも役に立たないス。すみません。

でもボスにはとても感謝しています。
「評価機関はいかにあるべきか」という話題で2時間も議論に付き合っていただけるのはとてもありがたいことと思います。

また、さすがに「評価機関に関しては、過去何年も考えてきて、提言もしてきた」と仰るだけあって、現時点では当然私の案よりもボスの案の方が現実性が高いことを認めねばなりません。


がしかし、いずれにしろ研究界にいたままではこの構想は実現しそうにないと判断しました。


 1.3早く経済的に自立したい

はい、本音です。

もっと具体的に言うと結婚とかね。やっぱ考えちゃいますよエェ。


大体、日本トップクラスの院生に対する給与が20万円って何なんですか。

同じ年齢のトップクラス会社員の給与は軽く倍以上ですがな。

私、何だかんだで月に26万円以上の収入が安定的にあるのですが、それでも今より生活水準を極端に落とそうと思えません。

月に5万円を超える本代などを何とかすればいいのかもしれませんが、知的投資の制限を強いられる『研究員』って、一体何なのか疑問です。

(ただ、現在志望している組織の一つは、もとは政府機関だったので、月給17万円というとんでもない数字をたたき出していました。バイトやんけ。日本の根幹を支える仕事なのに)

というわけで、仮に私が超優秀で、DC1を取れるという(とてもハイリスクな)前提をおいても尚、経済的には研究者は相当魅力が落ちます。



 2. ネガティブな理由

正直なところ、研究会をとりまくこの鬱屈した雰囲気からは逃げたい。

バイオが特に異常なのかもしれませんが。

ラボは決して暗くありませんが、それでも将来の話は実質的にタブー。
ブログ界における暗澹たる雰囲気は言わずもがな。
最近はメディアでも騒がれる始末(しかも「院生もっとしっかりしろよ」というトーンで)。


そりゃ研究は楽しいですけどね。

生活全体の充実感は、仕事単体では決まらないと思うんですよ。

同じ事務でも、明るい市場でやるのと暗い市場でやるのではだいぶ生活の満足感が異なるはず。

なので私は「仕事」だけでなく「仕事環境」も重要視したいんです。

病院でフランス料理を食べるよりは
ディズニーランドでおにぎりを食べたい派です。

(あ、研究界が病院だと言いたいわけではなく。確かに院は病んでますが)


過去20年間目指してきた科学者への道を絶つことに抵抗がなかったのかと言えばウソになります。

(過去20年は言いすぎかな。でも3歳の時点で既に父親から『ハーシェルの銀河』という言葉を刷り込ませられ、幼稚園の時には「将来は天文学者」と言っていたのは覚えているので、あながちウソではあるまい)

しかし、私が知りたいことはそもそも科学に限りません。

政治・歴史・経済・文化・宗教・・・

人間の営みの一環として科学を見るなら、むしろ科学界にいてはいけないとも思いました。



あと、「会社でも辛いことはたくさんあるよ。僕の同期でもうつ病で休んでる人を3人知ってるし」

なんて話を聞きますが、それがどうしたと。

私が知っているだけでも、うつ病or失踪で姿を見せない院生が5人いますが?

企業人から聞く「苦労」の多くは、
(1)将来の成長に必要な苦労か
(2)研究界にいても被る苦労 
のどちらかです。

それなら私は(1)を選びたい。

(2)にしたって、将来性と給料のバックアップのある環境で受けるストレスなら、いくぶんマシではないかと。



ある先生が、
「株とか証券とか、博打みたいなことに僕は興味がない。君はそんなことやりたいの?」

と仰いました。


興味がないのは構わないのですが、株よりも研究者の道を選ぶことの方がよっぽど博打な気がしてしまいます。

(そして、「投資は博打」という概念自体が時代の古さを感じさせます。大抵、就職を阻む先生方の言葉は、就職へのモチベーションを助長させるものでしかありません)





というわけでワタクシ、現在就職活動中です。

非常に充実しています。

既に50社以上の会社の説明を聞き、100人以上の社員と話をしましたが、
社会に出るのが(恐ろしくもありつつ)楽しみで仕方がありません。

あとは、第一志望に受かるかどうかということと、修論は大丈夫だろうかという不安が残るのみです。

場合によっては、上に挙げた「就職することにした理由」を全て満たす研究室が見つかるかもしれませんので、100%就職とはいきませんが、ほぼ100%就職です。

長くなったので続編はまた。

【BOOKS】『高学歴ワーキングプア』

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)
(2007/10/16)
水月 昭道



副題は「フリーター生産工場としての大学院」。

「ニートの生産工場」としなかったのはせめてもの気遣いか。

いわゆる「ドクター・ポスドク問題」を取り上げた一冊です。

正直なところ、データも分析も提言も種々のブログのレベルを超えておらず、
新しい発見はさほど多くありませんでした。

”著者略歴”には、「任期が切れる2008年春以降の身分は未定」(現在は非常勤講師)とあります。
被害の当事者として書いているという意味なのでしょう。
本書の中身も憤怒で満ちていますし。

著者の焦点は、著者の言葉を借りれば
「二流大学から二流大学大学院に行った人」や
「二流大学から一流大学大学院に行った人」に向けられており、
「一流大学から一流大学大学院に行った人」に関してはほとんど語られていません。
(著者による「一流」の定義は「旧帝大」)
わずか数行、「この人たちは最もフリーターを回避できるチャンスがある」と言及されているに過ぎません。

いや、それはどうなのかと。
是非とも、「一流大学から一流大学大学院に行ってもなお苦しい」という人々もインタビューして欲しかった。
そっちの方が危機感を煽れるでしょうに。


本書では、博士号を取ったのに苦しい生活をしている人々の様子が語られるわけですが、私が愕然としたのはそういった「問題提起」の部分ではなく、著者が「希望もあるよ!」と訴えている章でした。

「大学院のいいところ」の一つとして、「コミュニケーションの達人へ」という節が設けられています。

曰く。
「実は大学院では、常識をとても大切にした教育がなされているからだ。
 挨拶に始まり、研究室の掃除や資料の生理整頓、指導教官へのお茶くみ、気の利いた会話、先輩は後輩への気遣い、事務職とのお付き合い、会議などの準備・手配や飲み会等の仕切り、など。いわゆる下積みというものを、何年もの間にわたり経験させられるのが、大学院生の普通の生活なのだ」


これは衝撃的。

何ですか指導教官へのお茶くみって??

会議の手配って???

しかも「大学院生の普通の生活」????

初耳なんですけどっ!

もはや「下積み」というよりアカハラに聞こえてしまう。

そこらの企業や職人の「下積み」と違って、大学院生は金を払っているんですよ。

金ヅルをこき使うなんて、そんなのアリ?


(まぁ確かにうちのように、試験管etcまで洗ってくれる人が存在するのが良いかと言われると大いに議論の余地はありますが。)


この状況が、「大学院の希望」として真剣に(皮肉ではなく)語られているところに、問題の深刻さを感じました。

悲喜こもごも、学振。

学振の結果がわかる時期です。

毎年のことながら、落選した人への接し方がわかりません。

優秀で努力家なのに、テーマが難しくて結果が出ていない人が落ちていると特に。

通っている人もいるだけに、なおさら。

こういう現実を目の当たりにすると、研究評価の改善の必要性を強く感じます。

MOTの前に、management of intelligence。

こういう研究もやりたい。

国の大事な資源が浪費されるのは見るに忍びない。

山中教授:「日本の研究者はもっとコミュニケーションを」

今週のPRESIDENTに、iPS細胞の作成に成功した山中伸弥教授のコラムが載っていました。

ビジネスマン用の世俗的な雑誌に科学者の意見が載っていることに少し嬉しくなりました。


山中先生の主張は主に二つ。
1)「日本はES細胞の使用に対する規制を緩和すべきである」

「ブッシュ大統領はES細胞の使用に反対していますが、連邦予算をつけないというだけで、研究自体を禁止してはいません。」
「日本でヒトES細胞を実験で使うには、審査などで1年以上かかります。」

同じ京大の中辻先生もいつも指摘していますが、日本のES細胞の研究には規制が多すぎで、海外との著しいハンデがあるとされています。
頭脳流出を招いたり、頭脳流入を阻んだり、もしくはせっかく研究でプライオリティをとってもすぐに抜かれたりという問題が起こります。

山中教授はiPS細胞の知財を日本で確保するために苦吟されています(BTJジャーナル9月号参照)。
国益の防衛をなぜに末端の研究者がやらねばならんのか。
愛国教育とかの精神論の前に、事務レベルで国益損害を防ぐことを考えて欲しいものです。


2) 「日本は研究者どうしがコミュニケーションを深められる構造を作るべきである」

「アメリカの進んだ研究所になると、複数の研究チームが設備を共有し、浮いたお金で人を雇う。使わない機械よりも、新しいアイデアを持った人間の方が何倍も価値があることを知っているのです」

「海外では、壁のない大部屋で複数のチームが隣り合って研究をしている光景をよく目にします。吹き抜けにして、垂直にもコミュニケーションができるようにしているところさえあります。建物の構造からして日本と考え方が違います」

やはりこれこそがアメリカで研究をする真髄と思わせます。
正直、アメリカの方が実験機器がスゴかったという話はほとんど聞きません(逆はよく聞きます)。
しかし、アメリカにいると「研究者間の交流・議論」が日本と桁違いに深まるという点で渡米経験者の意見は一致しています。

日本では研究室内の議論さえ活発ではありませんし。

今日も、研究室間交流の重要性を痛感させる出来事がありました。
他のラボの友人と喋っていたら、その友人は私が欲しかったDrosophilaのcircadian rhythmに関する情報を持っていて、調べる手間が大幅に減りました。
というか、全く予想もしない情報だったので、一人で調べていたらたどり着かなかった可能性の大きいものです。

当局に頼っていても埒があかないので、しばらくは研究者が自発的に交流に勤めるしかないのでしょうね。
建物の構造などはどうしようもありませんが。

本当に、日本の研究は末端に対する負担が重過ぎるように思います。

【BOOKS】『生物時計はなぜリズムを刻むのか』:分子機構と社会利用

生物時計はなぜリズムを刻むのか生物時計はなぜリズムを刻むのか
(2006/01/11)
レオン・クライツマン、本間 徳子 他



対象とする読者は、「分子生物学の基礎的な素養はあるが、生物時計の専門家ではない人」です。
データには全て引用文献が付記されていますので便利です。

慨日リズムがどのように分子的に制御されているかを解説した章は、
著者曰く「本書の心臓部」かつ「最も難解な章」とされています。

難解といっても、分子生物学の基礎を知っている人には非常にわかりやすく書かれていたので、生物時計の分子基盤を知らなかった私は重宝しました。

類書は、複雑な分子機構を一つの図にまとめてあったりするため、
逆に理解しにくいということが多々あります。

その点、本書はまず最も基本となる機構を図説した後、

「しかしこの図だとこんな現象が説明できない」

「○○博士の研究により、新たな機構が判明した(少し複雑になった図で説明)」

「しかしこの図だとまだこんな現象が説明できない」

「××博士の研究により、他の制御機構が判明(また少し複雑になった図説)」

「しかしこの図だとまだこんな現象が説明できない」
・・・

というふうに段階的に説明が進むので、全体像が難なく頭に入ります。

難点と言えば、英単語が全て縦書きにされているため、とても読みにくくなっていることでしょうか。

備忘録的に、慨日リズムのカスケードをメモしておきます。
これはDrosophilaのもの。

1) ClockタンパクとCycleタンパクが二量体を形成し、DNAのプロモーター(E-box)に結合する
2) PeriodタンパクとTimelessタンパクが合成される
3) 細胞質内で二つのタンパク質が二量体を形成する
4) PER/TIM複合体は核内に移行し、ClockとCycleの活動を抑制する

これが基本的なサイクル。(下のサムネイル参照)

circadian clock regulated by PER and TIM


しかしこのサイクルは全体で数分しかかからないため、24時間サイクルを説明するにはまだ様々な機構解明が必要である。

可能な説明の一つは Doubletime(DBT)タンパクの存在。
このタンパク質はPERにリン酸基を付加させるキナーゼである。
リン酸化されたPERは分解経路に移行する。
PERはTIMと結合しているときにはリン酸化されない。
よって、TIMと結合するまでは分解され続けることになる。

核内ではPER/TIMが分解されるのに約10時間かかる。

(以上)

ちなみに哺乳類での機構もほぼ同じで(というより同じであることを想定してタンパク質を探したので半分当然ではある)タンパク質の種類が少し違います。

Drosophilaのタンパク質をマウスのタンパク質に変換すると次のようになります;

dPER → mPER1, mPER2, mPER3
dTIM → mCRY (クリプトクローム)
dCYC → BMAL1
dCLOCK → mCLOCK
dDBT → CKε



******
また、後半は慨日リズム研究の社会的な側面にも光を当てています。
医療には慨日リズムの理解が不可欠なのに、その重要性がほとんど理解されていないということが力説されています。

個人的に面白かったのは慨日リズムの軍事利用が解説されている章でした。

国防総省の研究所(DARPA)は、「24時間、7日間連続で戦闘できる兵士」をつくる研究をしているらしい。
曰く、「知的能力・身体能力を高いままに維持しつつ、睡眠をなくすことができれば、戦闘方法が根本的に変わる」だそうで。

過去の例としては、
・フォークランド紛争における英国軍の興奮剤使用
・リビア空爆の際の米国軍によるアンフェタミン使用
・湾岸戦争中におけるフランス軍によるモダフィニル使用
・(確定ではないが)イラク戦争時の米行軍によるモダフィニル使用
が紹介されています。

モダフィニルは近年かなり注目を浴びているようで、
目立った副作用もないまま三日三晩連続の戦闘を可能にする、とされています。

ふと、太平洋戦争時の日米比較論を思い出してしまいました。

「米軍は1日空爆したら2日休めた。これにより爆撃時の集中力が高まり、命中精度が上がった」
「日本軍は三日三晩ずっと戦闘機に座らせた。これでは精度が上がらない。これは人道的にも戦略的にも愚かである」

今、米軍は「戦略的には」正しい方法で三日三晩パイロットを酷使する方法を検討しているわけですが、人道的にはどうなんでしょうね。
科学を超えた議論ではありますが。

このモダフィニルは、ナルコレプシーの治療剤としてもFDAが認可されています。
現在、警察官や看護士など、「体のリズムを崩されることが多いが、高度な集中力を要する」仕事への応用も検討されているそうです。

良くも悪くも、アメリカは「基礎研究をいかに社会に応用するか」に余念がない国だと思わせます。
日本は、研究予算的には悪くない規模を誇っているのですから、もっと一般国民にわかりやすい形で還元する方法論が進歩してもよいと思います。

【BOOKS】『時間の分子生物学』

時間の分子生物学 (講談社現代新書) 時間の分子生物学 (講談社現代新書)
粂 和彦 (2003/10/20)
講談社



引用文献が書いていないので困ることが多いのですが、読み物として楽しめる本です。

以下、面白かった点のメモ。(カッコ内は感想)

・渡り鳥は、生物時計を使って方角を知ることができる。
日付と時刻と太陽の方角から『計算』している。

この鳥を部屋の中で飛ばし、電灯の位置を固定すると、この鳥の飛ぶ方向は1時間に15度ずつずれる。
これは、地球上で一定の方向を向いて飛び続けるためには、太陽の動き(1時間の15度ずつずれる)に対して飛ぶ方向を常に変化させる必要があるからである。

(これはすごい。ということは、渡り鳥は曇りの日は飛べないのだろうか?)

・実は、「人間の生物時計は25時間周期」説は確定していない
最初にこの「25時間説」を提唱した論文では、地下室の中で、自分の意思で明かりをつけることが許されていた。
この光によって生物時計が調整されていた可能性が高い。

つまり外部影響を完全に遮断したフリーランの状態ではなかった。

完全フリーランに近い報告は1999年にscience誌に発表されており、それによれば年齢によらず慨日周期はほぼ24時間で、個人差も30分以内であった。

(こんなふうに「思い込み」を排除してくれる情報が好き。しかし「光を当てると慨日時計が遅れる」のは妙に思える。太陽の光を浴びたらむしろ太陽の周期に合いそうなものだが)

・ナルコレプシー(活動中でも突如として睡眠に入ってしまう恐ろしい病気)は、単に「長く起きていることが難しい」だけでなく、「長く、深い睡眠状態でいることも難しい」病気である。
よって、治療薬として睡眠薬が処方されることもある。

(知人にいました、こういう人。その人がナルコレプシーだったかどうかはわからないのですが、とりあえず「いつでも寝ている」人でした。・・・ナルコレプシーとは違いそうですね。で、あまりにも睡眠時間が長いので医者に行ったところ、処方されたのが睡眠薬だったそうです。「飲むと永遠に起きられない気がする」と言って飲んでいませんでしたが)

Glia Got Rhythm (2):ハエのグリア細胞の概日リズム

(続き)
・ハエの脳のグリアには、形態学的なサブタイプがいくつかある。たとえば;
1) 神経網neuropilの外にある神経細胞体と相互作用しているもの(cell body glia)
2) 神経網の中に存在するもの(neuropil glia)

・Ebonyの機能解析には、実質的に全グリアに存在するドライバー(ただしニューロンには存在しない)を使用した。よってebony cDNAを全グリアで発現させることは、レスキュー実験として十分である。

・Ebonyタンパクは、neuropil gliaには十分に存在するが、cell body gliaなど他のgliaには多く存在するわけではない。

・神経網におけるEbony(+)のglial processは、慨日ニューロンやドーパミンニューロンと接している神経突起に局在している。

・neuropil gliaはシナプスと相互作用し、神経の慨日回路の調整に関わっていると考えられている。

・EbonyはPDFを含むLNvの近傍に発現しており、かつEbony変異体はリズムに変調をきたしているので、この変異体はLNvに問題があると考えられる。
しかし変異体のLNvには形態学的な変化は何もない上、PERやTIMはrobustな振動を示す。しかも周期的にPDFを分泌する。

では、どのようにEbonyは慨日行動を制御しているのだろうか?

・Ebonyはドーパミン(DA)シグナルを制御している可能性が考えられる。

・Drosophila Dopamine Transporter (dat) の変異体は自発運動、睡眠、覚醒を制御していることがわかっている。

・本論分では、ebonyとdatは相互作用していることが示された。

・ebony変異体は、dat変異体で見られる多動を抑制した。

・DATはDAを介したシナプス伝達を止める働きがあるので、EbonyはDAシステムを活性化する役割があるのかもしれない。

・また、EbonyはドーパミンからNBAD(N-β-alanine-dopamine)を生成する触媒機能を持っているため、NBADは前シナプスか後シナプスで何らかの作用を持っているのかもしれない。

・Ebonyは、βアラニンをDAだけでなくセロトニン・オクトパミン・ヒスタミン・チラミンなどと結合させる作用もある。

・他には以下のようなモデルも考えられる。
シナプスが活動している間に、Ebonyを持つグリアがシナプスからDAを除去し、NBADを生成して、DAをプレシナプスのニューロンにリサイクルする過程に使われる。

ebony変異体では、NBADの生成を阻害することで、このリサイクルの過程を抑制し、ドーパミンのシグナルを阻害する。

・mammalのCNSではグリアは形態学的および生理学的に強くシナプスに結合している。グルタミン酸を介した伝達においても重要な役割を果たしている。

・NBADや、他のEbonyによる産物は日中に増加するようである。
これはEbonyが日中に増えることとも整合性がある。
(このとき、自発運動も増加する)

・今後の実験としては、グリアの慨日リズムを人工的に変化させることで、ハエのふるまいがどのように変化するのかを見てみるのも面白い。

・mammalのSCNでもグリアが関与している証拠があるので、Drosophila だけでなく
mammalでも同様にグリア(アストロサイト)は同様の機能を持っているかもしれない。